学生のための環境デザイン設計競技
第1回学生のための環境デザイン設計競技
【応募資格】
【スケジュール】
公開審査会 2023年11月7日(火)
(※ 諸事情につき10月27日(金)から11月7日(火)に日程変更いたしました。)
【課題】
【主旨】
そしてそのすべてのデザインは繋がっているという発想から、これらを重ね着して環境と共生する建築を構想してください。
対象とする建築は自由ですが、必ずその機能がわかるように表現してください。
審査委員長 早稲田大学 理工学術院建築学科 教授 古谷 誠章
環境・設備デザイン賞「学生のための環境デザイン設計競技」2023
「環境を重ね着する建築」応募作品一覧
環境デザイン学生コンペ講評2023
建築・設備デザイン賞に関連する学生対象の初の試みとして、学生のための環境デザイン設計競技が「環境を重ね着する建築」を課題として催されました。裸で生まれる私たち人間の身体を、衣服にはじまり大気圏に至るまでさまざまな「環境」が取り巻いて、安全で快適な生活環境を築いているという認識のもとに、建築がそれらの環境を重ね着することで相乗効果を引き出し、よりよい空間を生み出すアイディアを構想することがねらいです。
応募された全17作品は、いずれも課題を的確に捉え、また多くのグループがデザイン系の学生と環境技術系の学生がタッグを組んで応募していたのがとても印象的でした。また、中には関東と関西と地域も隔たったメンバーが、オンラインを活用して積極的にコラボレーションをするなど、現代の情報通信環境を活かしたグループや、異分野、他大学の学生の枠を超えた協働など、多彩な取り組みを見ることができました。取り組んだテーマも、身近な家具スケールのものから、建築、高層マンション、さらには都市的土木的なスケールのものまで、まさに私たちの身体を取り巻くあらゆるものが課題としてあげられたように思います。
そんな中、最優秀賞に輝いたのは「境環境を重ねて、解く」と題された玉野さん沖さんの提案で、住宅どうしの隣棟間隔はあり、道路から車が排除されているものの、道空間が廃れて空洞化してしまった戦後の住宅地を取り上げ、住戸間の狭間の空間に、住戸内のアクティビティーが引き出されるような装置を配置して、住民どうしの交流を促そうとするものでした。少子高齢化して空洞化する住宅地問題に、具体的な一石を投じる優れた案だったと思います。
その他、優秀賞の「格子状の学び舎」、および「触覚の解放 -風塔を介して新宿に馴染む」の2点は、詳しくは個別の公表に譲りますが、いずれも都市における建築と周囲の都市部の限られた「自然」との応答に関する提案で、極めて今日的なテーマに触れていました。入賞の3点については、まず「環境が関響する 〜高層マンションの未来予想図〜」は将来の深刻な問題となる高層マンションの行く末に希望を描こうとするもので、テーマの重要性が際立っていました。「“風”を受け継ぎ暮らす」は種々のフィルターやファンで構成される空調機の構造をモチーフに建築家しようとするユニークな発想で、ムラのある空間の中に行為にふさわしい環境を選び取ろうとする生活態度に大いに共感しました。さらに「ENTWINED」は神戸の人口島に地形的環境と風や光を纏う建築の姿を提示して、デザイン力を感じさせました。惜しむらくはこれが3体に分離せずひと繋がりの構造体でできれば、より有効な重ね着になったのではないかと思います。
第一回の試みとしては、想定を大きく超える手応えを感じることができ、応募してくれた学生諸君の努力に大いに感謝します。確実に今後につなげていきたいと思います。
審査委員長 早稲田大学 理工学術院建築学科 教授 古谷 誠章
最優秀賞
作品番号:009
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本提案は、共有地と専有地の乖離が激しいテラスハウス団地内において、既存の境界からずらした位置に塀などの境環境(境界環境)をレイヤー状に重ねて配置することで、新たな⽣活環境を計画した。 境界の配置や形状、素材は、⾵の流れや温熱環境によって、計画することで環境性、空間性を⾼め、団地全体を⽣活空間とするような住⺠の主体的な活動を誘発する。 都市の循環の中に位置づけることで、持続可能な住宅環境を築いた。 選評 共同道路等の共有空間は、人々が集まり活動するという大きなポテンシャルを有しながら、個々人の自身の空間の強い専有意識のために専有地の境界に柵が建てられるなどして、ほとんど活用されておらず、多くの場合、非常に寂しく廃れた空間となっていることが現状である。本作品はそのような現状を改善すべく、豊かな共有空間の提案をしている。具体的には、兵庫県神戸市にある須磨ニュータウンのテラスハウス団地の共有空間を対象に、専有地と共有地の境界からずらした位置に塀などの境環境(境界環境)をレイヤー状に重ねて配置することで、新たな共有空間を計画している。境界の配置や形状、素材を工夫することによって、⾵の流れや温熱環境を改善するとともに、団地全体を⽣活空間とするような住⺠の主体的な活動を誘発している。 もちろんこの提案を実現するには、管理の問題、コストの問題等さまざまな克服すべき課題が存在する。しかしながら、現状の共有空間の問題に着目し、その具体的なソリューションを提案していることは注目に値する。上述のように日本においては、共有空間が貧弱である場合が多く、その理由は日本人の内と外を峻別する気質と共有空間の扱いに慣れていないことにあると評者は考える。そのためますます共有空間が魅力的でないものに陥るという悪循環に陥っている。本作品は、魅力的な空間を提示するとともにその使い方についても提案しており、これからの共有空間のあり方に一石を投じるものとなっている点が高く評価される。 審査委員 東京大学 生産技術研究所 教授 大岡 龍三 |
優秀賞
作品番号:011
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日本の近代建築は設備機器による室内の省エネと快適性を実現するため、屋外環境と完全に分離された。 そんな近代建築が林立しかつ高温化し続ける日本の都市の中で、自然環境を柔軟に取り入れ共生する建築を目指すべきと考えた。 寸法の異なるグリッドを環境シミュレーションにより構成し、重なり合ったグリッドが生む様々な空間が季節に応じて屋内外の境界を変化させることで、都市環境に建築側が歩み寄るような計画を目指した。 選評 エネルギー・環境問題、地球温暖化問題などの観点から建築の高気密高断熱化、高スペック化が進んでいる。そして高効率の設備機器で少ないエネルギーによって空間を完全にコントロールすることによる快適性が目指される。そのような、屋外環境と屋内環境が完全に分離された建築が林立する都市空間に違和感を持ち、自然環境を柔軟に取り入れ共生する建築を目指した提案である。 5mの建築単位グリッド/2.5mの空間・室単位グリッド/1.25mの家具・建具単位グリッド。この3つの異なるグリッドの重なりによって生まれる余白が、光や風を緩やかに遮り、そして呼び込む。建築全体に広がる学び舎としての図書館、キッチンスタジオ、カフェ、テラスなどそれぞれの機能に対応した空間は、3つのグリッドの素材感やスケール感にフィットするように計画されつつ、グリッドの重なり方、ずれの具合は、門前仲町の川に沿った敷地における自然環境のシミュレーションから決定される。この提案の秀逸なところは、構造や空間を構成するグリッドが人々のアクティビティに対応すると同時に、緩やかな環境装置としても機能していることである。計算して導き出された数値で正確にコントロールされた建築や都市をつくるためだけではなく、生身の身体が入り、人々が本能的に感じ取る居心地の良さを追求するためのエンジニアリング。まさにデザイン系と環境技術系の学生がお互いに影響し合った理想的なコラボレーションによって生みだされた建築である点も高く評価された。 審査委員 株式会社シーラカンスアンドアソシエイツ 代表取締役 赤松 佳珠子 |
優秀賞
作品番号:016
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時間帯によって利用者が異なり、行き先を既に決めた人で溢れる新宿三丁目は、新規参入し難い街と化している。 これは滞留空間の欠如が要因である。そこで、人々に開いたラウンジ(=滞留)空間、外部環境に開いた触覚空間が体感できる複合商業施設を構築する。 触覚空間は新宿の光と風のポテンシャルを活かし、風塔を介して誘う。 照度・風速が多様なアクティビティを誘発することで人々と建築は新宿に馴染み、ドレスアップを遂げる。 選評 あえて自然環境と馴染みにくいイメージである人で溢れた新宿3丁目という都心部において、外部環境に開くことにより光と風という自然を取り入れた触感空間を体感できる複合商業施設を構築するという提案。光と風が織りなす触感により多様なアクティビティを誘発することで人々と建築は新宿に馴染み、ドレスアップを遂げさせるという独自の発想である。 関西のデザイン系の学生と関東の環境技術系の学生が協働して、風塔を介して風を建物内部に取り入れ活動内容に応じた風環境評価指標を用いるなど、環境系の学生がエンジニアリング的な視点で敷地特性と建物の形態および室内環境を光と風から解析し定性定量的に評価し、デザインを意味付けしている点など、まさに環境デザイン設計の作品と言える。 建物のデザイン提案のみならず、さまざまな環境手法を用いて、その効果によるCO2の削減効果検証を行っている。CO2削減効果についてはエンボディド・カーボンの概念についても取り入れており、建築を取りまく社会的な課題も取り入れながら組んでいる点を含め高く評価される。 審査委員 株式会社三菱地所設計 機械設備設計部 部長 山縣 洋一 |
入賞
作品番号:005
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人口減少の加速と比例して、住宅の空き家率の増加が見込まれている。 高層マンションの「空き家」を「開き家」と捉えた、新たな社会提案。 減築という建築的操作を繰り返すことで、光や風、水、樹木、人々を建築内部に送り込み、そこで新たな生態系循環を組み入れ、時を重ねて徐々に環境を重ね着する。 閉ざされた建築の中に高層遊歩道をつくり、低層から高層部に人々を呼び込むことで希薄になったコミュニティを形成する。 |
入賞
作品番号:006
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本提案では、重ね着された環境に対して横断する〝風〟の存在に注目しました。 nLDK型による閉鎖的な住環境を、空調機の形式を用いた開放的で暮らしの行為によりそった空間の構成を提案しています。 フィルターや冷却触媒等のエレメントを建築のルーバーへと転換しそのすきまにも暮らしの行為を挿入しています。 風は地球で共有する大切な資源として考え、地域に返すことで豊かな感性を持つ持続的な建築を目指す。
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入賞
作品番号:007
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港都神戸の人工島ポートアイランドの豊かな環境ポテンシャルを活用し、穏やかな海と豊かな日照がつくる自然の営みが幾重にも交差する多様な生活環境を提案する。 環境を調整する役割を持つ3つのレイヤーには、港都神戸らしい外観を考慮し、帆布・水幕・ガラス素材を用いた。レイヤーによる屋内から屋外へのグラデュアルな変化と、3つが絡みあうことによる不均質性が、屋内外にわたり多様で豊かな環境を創り出す。
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ノミネート入賞以外の作品
作品番号:001
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現在、日本では子供の遊べない公園が増えている。 子供の声が迷惑といった近隣からの訴え、公園のルールの厳格化などによるものが多い。 これらにより土地の縮小、遊具の撤去が後を絶たない。 そこで私は 「木」が最後の遊具になるのではないかと考えた。 木は大昔から人類にとって身近なもので、その可能性は使い方次第。 このまま遊具がなくなった場合、代わりになるものは木しかない。 この空間では自身で遊び方を探ってほしい 。
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作品番号:002
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建築は未来のために適切な環境を纏っていくべきではないだろうか。 建築行為を行うことは、その環境の未来も変化させる。 建築はそのことを考慮して計画されるべきではないだろうか。 対象敷地にはかつて島と橋があり、豊かな滞留と回遊を両立する空間があった。 しかし、度重なる水害によって島や橋を脱衣した。 合理的かつ構造として美しく成立する橋という側面と環境変化に身を委ねながら島を形成する側面を両立する建築を提案する。
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作品番号:003
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暮らしが分業サービスに変わり戦後私たちは重ね着するものを変えた。 ⼈のためにできたインフラは現在都市災害に加担している。 その⼀つとしてヒートアイランドや集中豪⾬があげられる。 環境が変化した時それに対応する層を重ね着する必要がある。 今提案は現存するインフラを改修し環境だけではなく資源、⼈の連鎖的なネットワークを築く。 この装置は今後の都市のインフラを考える⼿掛かりとなることを願っている。
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作品番号:004
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都市部において、⼈々が⽣活の⼤半を過ごす居住エリアは時代の流れの中で多くの変化が起きている。 バブル時代の住宅⼤量供給による緑の減少、パンデミックによる地域交流の減少やテレワークの推進。 この様々な「社会環境」のレイヤーが重なり、精神疾患患者が増加している。 そこで、居住エリアに新たな地下空間を活⽤し、ストレス状態からの「回復を促すコンテンツ」を重ね合わせ、社会環境と共⽣可能にするストリートを提案する。
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作品番号:008
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福島県石川町に位置するこども園の計画。敷地は街から一段上がり山を背負っている。 街から隔絶された状態の敷地に対し、リング状の建築を計画した。 リングの外側は、奥性を生み周回を促す。内側の園庭は、建築に囲まれ、安心感をもたらす環境となる。 建築の内部に入り、出窓の中へと入ることで、より閉じた環境にも身を置ける。様々な環境を生み出し、それぞれの居場所を見つけられるような建築物を目指し、設計していった。
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作品番号:010
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人間が重ね着をするように、建築そのものが環境の要素を重ね着できるのではないかと考えた。 人間が重ね着する理由は環境に適応する為で、着たり脱いだりするように環境の要素も増減できないかと考えた。 パブリックエリアからプライベートエリアまでの間で一度建物に入っているにもかかわらず環境を取り込むために外部を経由して客室まで誘導する。 一般的な建築では急激に要素が減ってしまう部分を段階的に変化を与えた。
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作品番号:012
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中心にある発電塔の周りに学校や住宅がある。山谷特徴を活用し、風力発電で各地域にエネルギーを提供する。 各建物に 設置される太陽発電機・蓄電池と地下の電力供給管がエネルギー 余分または不足なときの蓄電提供を管理する。 さらに、自然への影響を最小限にするために、建物を地形に沿って重ねて配置し、土に埋めたり、植物を上に植えたりする。 住宅・都市・自然、全てはお互いに影響し合いながら、環境を重ね着する建築となる。
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作品番号:013
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馬喰町は密度が高く、建築に光が入りにくい。街を見渡すと、張り付けられた薄い面と白く輝く街灯が並ぶ。 人々は問屋の時間軸に沿って生活し、夜間は人気のない冷たい街並みとなる。 多くの建築は薄い壁一枚で内外を隔て、切り分ける。空間的な連続性を持たせ、自然的な刺激を取り込むよう、光環境の視点からファサードを含む建築の再考を図る。 一つの建築から街の景観を考え、かつて人で賑わったように、新たな街の顔を作り上げる。
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作品番号:014
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近年コロナウイルスの影響やメディアの変化に合わせ、自由で多彩な労働空間が求められている。 新しいオフィスビルの形態として、世代と環境を繋ぐオフィスビルと神田西公園のランドスケープを提案する。 敷地である西神田公園から一続きになるようにオープンスペースを設け、神田西小学校が元々あったこの土地で、児童センターを建築内に分散的に組み込ませ、緑廊がそれらを一続きに繋ぎ、世代と環境を繋いでゆく場所となってゆく。
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作品番号:015
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茶道は外部環境、内部空間、設え全てに関わる重層的文化である。 日本文化と関わり深い、樹木の枝振りから発想したこの現代茶室は、外と内の境界のしきりを敢えて曖昧に設えた。 影と光が刻々と可動しきりの変化と合わせて重なり合い、人とその全てが一体となる静的かつ動的な様をデザインした。 蹲で手を清める儀式も、この空間に合わせたデザインの紙石鹸を用意し、残りを水に浮かべ消えゆく様も楽しむ儚さの精神も重ね合わせた。
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作品番号:017
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都市・建築の環境共生には階層する環境を上手に“重ね着”するシステムデザインが不可欠である。 現在の都市システムは「建築設備(私)」が「都市設備(公)」を重ね着した二階層構造(依存関係)である。 脱炭素地域づくりに向け、私たちは都市内の地産エネルギー(公)を上手に利用するために、それらの間に「街設備(共)」を重ね着した三階層構造(相互連携関係)を提案し、⾧崎市をモデルに三階層のシステムデザインを行った。
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